いざトーク 第1回

いざトークいざトーク

茂木友三郎(もぎ・ゆうざぶろう)

キッコーマン株式会社代表取締役会長CEO

昭和10(1935)年2月13日生まれ。
慶應義塾大学法学部卒業後、昭和33年に野田醤油(現キッコーマン)入社。
昭和36年には米国コロンビア大学経営大学院MBA(経営学修士)を取得。
平成7年にキッコーマン代表取締役社長に就任。平成14年には日本経済団体連合会常任理事となる。
平成16年から代表取締役会長、平成23年から取締役名誉会長。

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自治体経営者に求められるものとは何か

マニフェストの実行には見直しが必要

茂木 まず、自治体経営者に求められるものは何かについて、私が感じていることからお話しします。自治体の経営者も企業の経営者も、組織を経営するという基本は同じだと思っています。では、組織を経営するとは、どういうことでしょうか。ベースとなるのは、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)をうまく回していくことなのです。
 最初にプラン、計画があります。ひと口に計画といっても、いろいろな種類の計画があります。大きく分けて、中長期の計画と短期の計画があります。企業では3年から5年の中期計画を立て、それに基づいて生産活動や営業活動を進めます。一方、市長はマニフェストを掲げていますが、市長の任期は4年です。ですから、マニフェストは4年計画、すなわちこれも中期計画といえましょう。

井崎 そうですね。マニフェストの実現に向けて、事業化を図っていきます。

茂木 事業化に向けては、毎年度の予算に落とし込んでいく作業が必要になってきますね。つまり、マニフェストはあくまでも中期計画であり、イコール実行計画ではありません。マニフェストの項目を実現するため予算化するときには、もう一度見直していかなければならないでしょう。見直して、必要があれば前倒して実行する。場合によっては先送りし、あるいは計画を縮小したり、中止することもあるでしょう。一方で、マニフェストを考えたときには想定していなかったけれども、予算化の段階で必要になる項目は加えなければなりません。マニフェストに書いていないからやらない、というのはおかしな話です。要するに、マニフェストの見直し作業が必要になってくるわけです。このように、中期計画と実行計画は、はっきり分けて考える必要があります。

井崎 社会や経済の動きは速いので、中期計画を策定したときとそれを実施するための予算化の段階で、社会環境やニーズが変化していることは少なくありません。それをきちんと見極めて、見直していかなければならないということですね。
 マニフェストには市長任期の4年間に取り組むことを明記しますが、私は、1年以内に実行するもの、2年以内に実行するもの、4年かけて実行するもの、という形で分類整理しています。そして、大事なことはその進捗状況をきちんと有権者や市民に示すことだと考え、マニフェストに掲げた政策で遅れているもの、修正や変更したものについては、理由をきちんと説明しています。その理由が妥当であれば、有権者や市民は理解してくださると考えています。

茂木 もう1点、マニフェストにはいろいろな政策が書いてありますが、有権者はすべての項目を実現してほしいと思って投票しているわけではありません。遅らせたほうがいい項目や、思い切って止めたほうがいい項目もあります。選挙の時点では実現できると思っていたけれども、実際には実現が難しい項目もあるでしょう。その点からも、マニフェストを毎年度の予算に落とし込む段階で再検討する必要があります。計画段階でそのことを十分に理解していないと、混乱の原因になるでしょう。

人事を「人」でなく「仕事」で考える

茂木 それから、PDCAのマネジメントサイクルは、プランを立てるところから始まりますが、ドゥに移るまでにはいくつかの段階を踏まなければなりません。まず、オーガナイズ、すなわち実行するための組織をつくります。次に、アセンブル・リソース、資源や人材を調達する。そして、ディレクト(指示)し、ドゥ(実行)となります。
 つまり、計画から実行までにはいくつかのステップがあり、計画を立てただけでは何も実現しません。計画を実現するためにどういう組織をつくり、どのような人材を当てていくかを考える必要があります。そして、指示をしなければ組織は動きません。指示をして組織が動いて初めて、実行に移るのです。そして、実行したあとにチェックする。こういう順番になるわけです。
 これが企業経営の基本ですが、行政においてもまったく同じことが言えるのではないでしょうか。

井崎 プランからドゥまでには、組織化、人材調達、指示のステップを踏むというお話でしたが、自治体においても同じです。ただし、人事面において民間と少し違う点があります。それは、自治体では一般的に2~3年のローテーションで部署を移動しているということです。そのため、その道のプロになるのが難しく、いつまでも素人集団を脱せない傾向があります。やはり、ひとつの課、あるいは部の中で個人の能力を磨き、プロになっていかなければならないと私は思っています。
 今まで人事担当者は、職員に様々な仕事を経験させ、幅広い知識を持ったジェネラリストを育てようとしてきました。ジェネラリストとは複数の分野で一定以上の知識や技術、能力を持つ人のことです。ところが現実は、苦情や提案にこられた市民の知識レベル以上とはいえない場合が少なくないのです。そこで、仕事の質を中心に考えていくことが必要です。30歳くらいまではいろいろと経験させることはいいでしょう。しかし、そこから先はできるだけ同じ分野の仕事を長く担ってもらう。そのことによって、市民から信頼される行政のプロになっていくと思うのです。全く異なる部署を移動しながら昇進するのではなく、部内や関連する部間で移動し、昇進していくことが重要だと考えています。いま、流山市では、「人」でなく「仕事」で考える人事に取り組んでいます。

行政職員はパブリック・サーバント

茂木 組織を経営するという意味では企業と行政の基本は同じだと話しましたが、両者が決定的に違うところもあります。それは、行政の運営が国民や市民の税金で賄われていることです。つまり、公務員がパブリック・サーバントであることが、行政が企業と大きく異なる点でしょう。企業経営者が株主のために経営しているのに対し、行政の首長はパブリック、すなわち市民のために仕事をしているわけですね。
 私はアメリカで地方自治に接する機会が何回かありました。特に人口の少ない町において感じたことですが、その町長の仕事ぶりを見ていて、アパートの管理人のような印象を受けました。アパートの居住者から管理費を集めて、その枠内でできるだけいいサービスを行う。つまり、住民から税金を集めて、できる限りいいサービスを提供するのが町長の役目であるという感じを受けました。町長と住民の距離が近く、コミュニケーションなども図られています。まさにパブリック・サーバントだと感じました。

井崎 日本においても、市長や自治体職員がパブリック・サーバントであることは自治体経営の大前提であり、私も常に意識しているつもりです。ただ、民主主義に則って市政を進めていく中では、市長や自治体職員がリーダーシップを発揮しなければならない場面があります。このリーダーシップが、立場の異なる市民の目には行政の独走のように映ることもあります。ですから、市民の税金で事業を進めている自治体としては、そこを丁寧に説明し、市民の合意を得ていく努力が必要となるのです。
 企業の意思決定と異なり、市民の意見を聴取し、議会での十分な議論の上、承認を得るという民主主義のプロセスには発意から決定までに膨大な時間を要します。民主主義のコストといえます。しかし、「ためにする議論」をしても市民のためにはなりませんので、どこまで時間をかけるか、意味のある議論をしているか、「議論の効果」を考える必要も感じています。
 また、いろいろな意見を調整して合意形成を図るためには、職員がプロとなり、専門知識に裏付けされた見識を持つ必要があります。そうでなければ、様々な市民の中でリーダーシップを発揮することはできません。

茂木 私も新入社員に「プロになれ」と話しています。実は、日本の企業も、人事でローテーションを行い過ぎるところがあります。国家公務員のキャリア組に経験を積ませるためローテーションしていることに倣い、企業も大学卒業者はローテーションしなければならないという考え方が定着したことがその原因です。しかしそれは、古い考えだといえましょう。昔は、大卒者は3%しかいませんでした。リーダーは組織の中に5%いればいいといわれ、3%の大卒者と2%の成績のいい高卒者をリーダーにしたわけです。そのリーダーをつくるために、大卒者のローテーションを行ってきました。
 ところが、現在は大卒者が多数を占めるようになりました。その大卒者をローテーションしていたら、とてもプロは育ちません。昔みたいにのんびりした時代には、プロでなくてもよかったかもしれません。しかしいまや、プロでなければ勝負できない社会になりました。私は40歳までに2つくらいのスペシャリティをつくれと話しています。30歳までに1つ、40歳までにもう1つ、その道を究めることが、マネジメントのスペシャリストになることへとつながっていると思います。。
 行政でも同じではないでしょうか。行政のプロであるべき職員が素人だったら、市民が抱える問題を解決することなどできないでしょう。
 それから、首長はリーダーシップをどんどん発揮しなければなりません。そして、それをガバナンスの面で議会がチェックすることが極めて重要です。議会との関係で多少時間がかかるのは、やむを得ないのではないでしょうか。

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